新規事業の立ち上げに関わっていると、
「とりあえず形が見えるものを作ろう」
「触れるものがあった方が議論が進む」
という判断が重なる場面によく出会います。
画面がある。
プロトタイプが動く。
資料ではなく実物がある。
その状態になると、
プロジェクトが前に進んでいるように感じやすくなります。
ただ一方で、
何かは作られているのに、意思決定が進んでいない
という違和感を抱えている人も少なくありません。
この違和感は、
「手触り感」を重視しすぎた時に起きやすい構造と深く関係しています。
触れるものがある安心感
動いているように見える
新規事業の初期フェーズでは、
不確実なことが多く、
「正解が見えない状態」が続きます。
その中で、
画面やプロトタイプといった
目に見える成果物は、
強い安心感を与えます。
・何もしていないわけではない
・ちゃんと進めている
・次の議論がしやすい
こうした感覚が生まれ、
関係者の不安も一時的に下がります。
成果が出た気になる
触れるものがあると、
「一歩進んだ」という実感を得やすくなります。
しかしこの実感は、
進捗ではなく作業量に対する満足感であることが多いです。
作ったこと自体が評価され、
「何を決めたか」「何が変わったか」
という問いが後回しになりやすくなります。
なぜ危険なのか
判断が後回しになる
手触り感を重視しすぎると、
判断を先送りしやすくなります。
「もう少し作ってから決めよう」
「触ってみてから考えよう」
という言葉は、一見合理的に聞こえます。
ただ、
何を判断するために作っているのか
が整理されていない場合、
作ること自体が目的に変わってしまいます。
結果として、
判断は先送りされ、
次の判断のためにまた何かを作る、
という循環に入ります。
前提が固まらない
本来、
新規事業の初期フェーズでは、
前提条件を仮置きしながら進めていく必要があります。
誰のどんな課題を解くのか。
どの仮説を検証したいのか。
どこまでを今決めるのか。
手触り感に意識が向きすぎると、
こうした前提の整理が曖昧なまま進みます。
前提が固まらないため、
成果物が増えても、
判断の材料として機能しにくくなります。
手触りと前進は別物
作っているだけの状態
「作っている」と「前に進んでいる」は、
必ずしも同じではありません。
作業は進んでいる。
会議も回っている。
成果物も増えている。
それでも、
・意思決定が増えていない
・選択肢が絞られていない
・捨てたものが明確でない
こうした状態では、
プロジェクトは実質的に足踏みしています。
決断が伴っていない
前進とは、
決断の積み重ねです。
何をやるかだけでなく、
何をやらないかを決めること。
どの方向に賭けるかを選ぶこと。
手触り感だけを重視すると、
この「決断」が伴わないまま、
作業だけが積み上がっていきます。
初期フェーズで見るべきもの
何を判断したか
初期フェーズで本当に見るべきなのは、
成果物の数や完成度ではありません。
・どんな判断がなされたか
・どの前提を採用したか
・どんな選択をしたか
こうした判断の履歴こそが、
前進の指標になります。
何を捨てたか
もう一つ重要なのは、
「何を捨てたか」です。
新規事業では、
すべてを同時に試すことはできません。
選ばなかった選択肢。
今回は見送ったアイデア。
後回しにした機能。
これらが言語化されているかどうかで、
プロジェクトが意思決定できているかが見えてきます。
推進役が見る本当の進捗
成果物ではなく判断履歴
プロダクトマネージャーや推進役の視点では、
「何ができたか」よりも、
「何が決まったか」を重視します。
成果物は、
判断の結果として存在するものです。
判断が伴っていない成果物は、
次の意思決定につながりにくくなります。
次に進める状態かどうか
本当の進捗とは、
「次の一歩が踏み出せる状態かどうか」です。
・次に検証する仮説が明確か
・次に判断すべき論点が整理されているか
・誰が決めるかが見えているか
これらが揃っていれば、
たとえ手触り感が薄くても、
プロジェクトは前に進めます。
まとめ
新規事業で手触り感を重視すること自体は、
間違いではありません。
見えるものがあることで、
議論がしやすくなり、
関係者の不安が下がる場面もあります。
ただ、
手触り感だけが前面に出ると、
判断が後回しになり、
前進している感覚と実態がズレていきます。
新規事業や新規プロダクトの立ち上げでは、
進め方が定まらないまま立ち止まってしまうことは珍しくありません。
もし「ちゃんと動いているはずなのに、前に進んでいない気がする」と感じているなら、
一度、
何を判断できているか
何を捨てられているか
を整理してみることも選択肢のひとつです。
成果物の量ではなく、
判断の積み重ねに目を向けることで、
次の一歩が見えやすくなることもあります。
