新規事業の打ち合わせで、
こんな言葉が出てきたことはないでしょうか。
「前例がないので、もう少し様子を見ましょう」
「似た事例が見つかれば判断できるのですが」
誰かが反対しているわけではありません。
否定されている感じもない。
ただ、決まらないまま時間だけが過ぎていく。
この状態は、新規事業の現場でとてもよく見られます。
そして、本人たちは「慎重に進めているつもり」でも、
実際には止まってしまっているケースが少なくありません。
前例がない=進めないという思考
比較対象を探し続ける
新規事業の議論が進まないとき、
多くの組織は「比較できる何か」を探し始めます。
・他社の成功事例
・過去に似た取り組み
・業界の標準的な進め方
これ自体は自然な行動です。
判断材料を増やそうとしているだけだからです。
ただ、問題は
比較対象を探すこと自体が目的になってしまう点です。
判断が保留される
「もう少し事例を集めてから」
「次回までに調べておきます」
こうした言葉が繰り返されると、
判断は常に次回へ持ち越されます。
結果として、
・検討は続いている
・資料は増えている
・でも、決定は増えていない
という状態になります。
なぜ前例に頼りたくなるのか
責任回避
前例に頼る背景には、
個人の弱さではなく構造的な理由があります。
前例があれば、
「それに倣った」という説明ができます。
逆に前例がない判断は、
どうしても個人の判断として見られやすい。
その結果、
・失敗したときの説明が難しい
・判断した人だけが矢面に立つ
こうした不安が、
無意識のうちに前例依存を強めます。
安全策への依存
前例は「安全そう」に見えます。
・誰かがすでにやっている
・一定の結果が出ている
・否定されにくい
ただし、新規事業においての安全策は、
必ずしも前進につながりません。
安全に見える判断が、
実は何も決めていない状態であることもあります。
新規事業に前例は存在しない
条件が毎回違う
新規事業は、
毎回条件が違います。
・タイミング
・組織の体制
・市場の温度感
・リソースの量
過去の事例と完全に一致する条件は、
ほぼ存在しません。
つまり、
「前例があるかどうか」を基準にすると、
永遠に決められないことになります。
参考と踏襲の違い
ここで重要なのは、
前例を参考にすることと
踏襲することの違いです。
参考にするのは有効です。
視点や選択肢を広げてくれます。
ただし、
「前例と同じだから」という理由での判断は、
新規事業ではあまり意味を持ちません。
前例がない時の判断軸
仮説としての判断
新規事業の初期フェーズでは、
多くの判断は仮説です。
・いまの前提が正しいと仮定すると
・この選択肢が最も筋が良さそう
こうした仮の判断を置かない限り、
検証も進みません。
判断=確定、ではありません。
判断=仮置き、という考え方もあります。
修正前提の進行
前例がない状況で重要なのは、
「間違えないこと」ではなく
「修正できること」です。
・いつ見直すのか
・何が変わったら修正するのか
これが共有されていれば、
判断のハードルは下がります。
前例がないからこそ、
修正前提で進む設計が必要になります。
推進役が置く現実的な補助線
判断材料を整理する
推進役ができることのひとつは、
「前例がない」という一言で止まらないよう、
判断材料を整理することです。
・分かっていること
・分かっていないこと
・仮で置いている前提
これらを並べるだけでも、
「何も決められない状態」からは抜け出しやすくなります。
決められる状態をつくる
決断を迫る必要はありません。
ただ、決められる状態を整えることはできます。
・判断しないことのリスク
・判断した場合の影響範囲
・次に見直すタイミング
こうした補助線があると、
前例がなくても判断しやすくなります。
まとめ
新規事業で
「前例がない」という理由で止まるのは、
珍しいことではありません。
多くの場合、
慎重さや誠実さの裏返しです。
ただ、
新規事業において前例は、
ほとんどの場合、存在しません。
前例を探し続けることで、
結果的に何も決められない状態が続くこともあります。
新規事業や新規プロダクトの立ち上げでは、
進め方が定まらないまま立ち止まってしまうことは珍しくありません。
もし「前例がないから判断できない」と感じているなら、
一度、何を材料に判断しようとしているのかを整理してみることも選択肢のひとつです。
それだけでも、
次の一歩は見えやすくなります。
