新規事業の立ち上げ現場で、
こんな人物に心当たりはないでしょうか。
・説明が終わる前に「分かりました」と言う
・議論が深まる前に「それで行きましょう」と決める
・周囲からは「話が早くて助かる」と評価されている
一見すると、とても優秀で頼もしい存在です。
しかし新規事業の初期フェーズでは、
「話が早いこと」そのものがリスクになる場面があります。
これは能力の話ではありません。
構造の問題です。
話が早い=優秀という誤解
即断即決の安心感
新規事業では、不確実な状況が続きます。
正解が分からず、判断材料も揃っていません。
そんな中で、
迷いなく決めてくれる人がいると、
チームは一瞬安心します。
・会議が早く終わる
・次の作業にすぐ移れる
・止まっている感じがしない
この「動いている感覚」は、
現場にとって非常に心地よいものです。
スピード感への期待
特に経営層や上位レイヤーからは、
スピード感が強く求められます。
「早く形にしてほしい」
「まずやってみよう」
その期待に応える形で、
話が早い人は重宝されやすい。
結果として、
早く決める人=仕事ができる人
という評価が定着していきます。
なぜ危険になるのか
前提確認が抜ける
話が早い判断で最も抜け落ちやすいのが、
前提条件の確認です。
・誰の課題を解こうとしているのか
・どの仮説を検証しようとしているのか
・何が分かっていて、何が分かっていないのか
これらをすっ飛ばして、
結論だけが共有される。
すると、
「同じ結論を見ているのに、
頭の中の前提が全員違う」
という状態が生まれます。
論点が整理されない
話が早い決断は、
論点を省略してしまうことがあります。
本来であれば、
・A案とB案の違い
・選ばなかった理由
・残っている不安要素
こうした整理が必要です。
しかし「もう決めたから」と進むと、
整理されない論点が水面下に残ります。
後になって、
別の形で必ず噴き出します。
早さと前進の違い
早く決める
早く決めること自体は、
必ずしも悪いことではありません。
特に初期フェーズでは、
完璧な判断は存在しません。
一定のスピードで決めて、
動きながら修正することは必要です。
ただしそれは、
「雑に決める」こととは違います。
正しく決める
正しく決めるとは、
時間をかけることではありません。
・今は仮決めである
・この前提が崩れたら見直す
・次に確認すべきポイントはここ
こうした整理がされた上での決断です。
早くても、
判断の質が担保されていれば、
それは前進になります。
逆に、
どれだけ早く決めても、
前提と論点が整理されていなければ、
前進にはなりません。
初期フェーズに必要な速度感
急ぐべき判断
初期フェーズで急ぐべきなのは、
「検証を始めるための判断」です。
・この仮説を試すかどうか
・この範囲でやってみるかどうか
・ここまで捨てて進むかどうか
これらは、
完璧を待っていても始まりません。
一定の情報が揃った時点で、
前に進む判断が必要です。
立ち止まるべき判断
一方で、
立ち止まるべき判断もあります。
・前提が変わる判断
・方向性が大きく変わる判断
・取り返しがつかない選択
ここを「話が早い」勢いで進めると、
後から修正コストが一気に膨らみます。
すべてを同じ速度で扱うと、
新規事業は歪みます。
推進役が入れるブレーキ
止めるためではない
推進役が入れるブレーキは、
スピードを落とすためのものではありません。
むしろ目的は逆です。
・前に進むため
・後戻りを減らすため
・学習を積み上げるため
そのために、
一度立ち止まって整理します。
前に進むための整理
推進役が行うのは、
次のような問いかけです。
・今、何を決めたのか
・何を決めていないのか
・どこが仮で、どこが確定か
これを言語化するだけで、
話の早さは危険ではなくなります。
判断は早くても、
構造は崩れません。
まとめ
新規事業において、
話が早い人がいること自体は問題ではありません。
問題になるのは、
早さが目的化し、整理が省略されることです。
誰も悪くありません。
スピードが求められる環境では、
自然に起きる構造です。
新規事業や新規プロダクトの立ち上げでは、
進め方が定まらないまま立ち止まってしまうことは珍しくありません。
もし「決断は早いのに、なぜか不安が残る」と感じているなら、
一度、状況を整理してみることも選択肢のひとつです。
速さと前進は別物です。
その違いに気づくだけでも、
次の一歩は、少し確かなものになります。
