新規事業や新規プロダクトの立ち上げに関わっていると、
こんな空気を感じることがあります。
「もう決めたことだから」
「今さら方向を変えるのは難しい」
「ここまで進めたのに、戻れない」
明確に反対している人はいない。
ただ、誰もその前提を疑わなくなっている。
違和感はある。
数字や反応も、どこか噛み合っていない。
それでも、最初に決めた方針が“絶対”のように扱われ続ける。
この状態は、
新規事業の初期フェーズでよく起きる、静かな危険信号です。
決定が神格化される瞬間
決めたことが前提になり続ける
新規事業では、
最初に決めることが多くあります。
・狙う市場
・想定する顧客
・提供する価値
・進め方の方針
どれも、構想段階では仮の判断です。
ただ、プロジェクトが動き始めると、
それらが「前提」として固定されていきます。
いつの間にか、
「なぜそう決めたのか」を振り返らなくなる。
前提を疑うこと自体が、
場の空気に合わなくなっていく。
「今さら戻れない」が生まれる
時間が経つほど、
次の言葉が出やすくなります。
「今さら変えられない」
「もう資料も作ったし」
「関係者にも説明してしまった」
これは誰かの怠慢ではありません。
人が集団で動くと、
自然に生まれやすい心理です。
ただ、この感覚が強くなるほど、
修正は“間違い”として扱われやすくなります。
修正できなくなる心理
間違いを認めるコストが重い
方向転換や修正は、
理屈だけの問題ではありません。
・自分の判断を否定する感覚
・関係者への説明のし直し
・過去の決定への責任
こうした「心理的コスト」が積み重なると、
人は無意識に修正を避けるようになります。
「多少の違和感には目をつぶろう」
「もう少し様子を見よう」
そうして、
本来は早く調整できたはずのポイントが、
固定されていきます。
責任問題に発展する恐れ
修正が難しくなる理由の一つに、
責任の扱いがあります。
「方向を変える=誰かの判断が間違っていた」
そう受け取られてしまう構造があると、
修正はリスクの高い行為になります。
結果として、
誰も強く言わない。
誰も止めない。
ただ進み続ける。
この状態は、
外から見ると安定しているように見えることもあります。
内側では、違和感だけが溜まっていきます。
初期仮説の扱い方
初期は仮説でしかない前提
新規事業の初期フェーズでは、
ほとんどの判断は仮説です。
・市場の反応
・顧客の行動
・提供価値の伝わり方
どれも、
実際に動いてみなければ分からない。
それにもかかわらず、
初期の判断を「決定事項」として扱ってしまうと、
学習の余地が失われます。
仮説が仮説のままであること。
これは、異常ではなく自然な状態です。
検証で変えるのが正常
検証の結果、
最初の想定と違う反応が出ることは珍しくありません。
・想定していた顧客が違う
・価値の伝わり方が違う
・使われ方が違う
この時に必要なのは、
「どちらが正しいか」ではありません。
「何が分かったか」
「何を変えると次が見えるか」
修正は後退ではなく、
前進の一部として扱われるべきものです。
柔軟性を保つための前提
変更を許容するルール設計
修正しやすいプロジェクトには、
共通する前提があります。
・途中で変えることを前提にしている
・変更は失敗ではないと合意されている
・検証結果が優先される
これは精神論ではありません。
運用の問題です。
最初から「変えていい」前提があるだけで、
議論の質は大きく変わります。
フェーズごとの見直しタイミング
すべてを常に疑う必要はありません。
重要なのは、
「見直すタイミング」が決まっていることです。
・このフェーズが終わったら見直す
・この検証結果が出たら再判断する
・ここまでは仮置きとする
こうした区切りがあると、
修正は感情ではなく、
プロセスとして扱われます。
PMが用意する見直し余地
決定事項と仮置きを分ける
プロダクトマネージャーや推進役が担うのは、
すべてを決めることではありません。
・本当に固定すべき決定
・仮置きとして進める判断
この線引きを明確にすることが、
重要な役割の一つです。
「これは一旦こうする」
「これは検証前提」
そう言語化されているだけで、
チームの緊張感は変わります。
修正前提で進める推進設計
修正できる状態を保つことは、
スピードを落とすことではありません。
むしろ、
間違った方向に全力で進むリスクを減らします。
・小さく決める
・早く試す
・早く見直す
この循環が回ると、
「決めたから変えられない」という空気は生まれにくくなります。
まとめ
新規事業において、
「一度決めたことを疑えない」状態は、
静かにリスクを高めていきます。
それは誰かの頑固さや、
判断力の問題ではありません。
・責任の構造
・心理的コスト
・運用の前提
こうした要素が重なることで、
修正が難しくなっていきます。
新規事業や新規プロダクトの立ち上げでは、
進め方が定まらないまま立ち止まってしまうことは珍しくありません。
もし「変えたほうがいい気がするが言い出せない」と感じているなら、
一度、決定事項と仮説の境界を整理してみることも選択肢のひとつです。
それだけで、
前に進むための余白が見えてくることがあります。
