新規事業の立ち上げが思うように進まないとき、
現場ではこんな会話が交わされることがあります。
「昔はこのやり方でうまくいった」
「前も同じ流れで成功している」
「一度勝った方法なのだから、今回も通用するはずだ」
どれも、間違った話ではありません。
むしろ、組織として自然な反応です。
過去の成功体験は、判断を早め、不安を和らげてくれます。
ただ、新規事業が止まりやすい会社ほど、
この「成功体験」が、知らないうちに足かせになっていることがあります。
成功体験が足かせになる瞬間
過去の勝ちパターンを再現したくなる
新規事業は不確実性が高く、
正解が見えない状態から始まります。
そんな中で、過去の成功事例は、
数少ない「信じられるもの」として扱われがちです。
・この市場ではこの売り方
・この規模感ならこの体制
・この順番で進めれば大丈夫
一度うまくいった経験があるほど、
「同じ型」を再現しようとする力は強くなります。
それ自体は悪いことではありません。
ただ、その型が
どんな前提条件の上で成立していたのかを
確認しないまま使われると、
ズレが少しずつ積み重なっていきます。
変化を認めにくい心理
成功体験は、
個人だけでなく、組織のアイデンティティにもなります。
「自分たちはこのやり方で成長してきた」
「この判断軸が正しかった」
こうした自負があるほど、
前提が変わっていることを認めるのは簡単ではありません。
変化を受け入れることは、
過去の判断を否定するように感じられるからです。
その結果、
「やり方が合っていない」のではなく、
「進め方が遅い」「現場が弱い」と
別の理由に置き換えられていきます。
前提条件が変わっている現実
市場・顧客・競合・技術の変化
新規事業が難しくなっている背景には、
環境の変化があります。
・市場の成熟や細分化
・顧客の情報収集力の向上
・競合の増加とスピード
・技術やツールの進化
過去に成功した時と比べると、
「同じ事業領域」であっても、
条件は大きく変わっていることがほとんどです。
それにも関わらず、
進め方だけが昔のままだと、
噛み合わない場面が増えていきます。
同じやり方が通用しない理由
成功体験が通用しなくなるのは、
やり方が間違っているからではありません。
前提条件が変わった結果です。
・当時は競合が少なかった
・顧客の課題が単純だった
・意思決定が今より速かった
こうした条件が揃っていたからこそ、
機能していた方法もあります。
条件が変われば、
同じやり方でも結果が変わるのは自然なことです。
過去事例を使う時の注意点
参考と踏襲は違う
過去の成功事例は、
捨てるべきものではありません。
ただし、「そのまま使う」ことと
「参考にする」ことは別です。
参考にするとは、
・何が効いていたのか
・どんな前提があったのか
を分解して見ることです。
踏襲してしまうと、
「同じことをすれば同じ結果になる」
という期待が先に立ちます。
そこにズレが生まれます。
「条件」を分解して見る
過去の成功事例を見る時は、
結果よりも条件を見る視点が重要です。
・なぜその判断が正しかったのか
・その時、何が決まっていたのか
・どこに余白があったのか
条件を言語化すると、
「今は同じではない」点が見えてきます。
それだけで、
次の打ち手の選択肢が広がります。
初期フェーズの思考切り替え
仮説で動く
新規事業の初期フェーズでは、
成功体験よりも「仮説」が重要になります。
・この顧客は本当にこの課題を持っているか
・この価値は伝わるのか
・この進め方は今の環境に合っているか
確信ではなく、仮説として置くことで、
検証と修正が前提になります。
過去の成功体験も、
「仮説のひとつ」として扱えるようになります。
小さく検証して学ぶ
前提が変わっている状況では、
最初から大きく当てに行くより、
小さく試す方が現実的です。
・一部の顧客で試す
・一部の機能だけ出す
・短い期間で区切る
こうした動き方は、
過去の成功体験に慣れている組織ほど、
遠回りに見えるかもしれません。
しかし、学習速度という点では、
結果的に前に進みやすくなります。
PMが前提を疑う役割
前提の言語化
プロダクトマネージャーや推進役の重要な役割は、
「暗黙の前提」を言葉にすることです。
・なぜこのやり方を選んでいるのか
・どの成功体験を前提にしているのか
・今も同じ条件が揃っているのか
これを問い直すことで、
議論が個人の感覚から離れ、
構造の話になります。
進め方を現代化する
過去の成功体験を否定する必要はありません。
ただ、今の環境に合わせて
「進め方」を更新していく必要があります。
・意思決定のスピード
・検証の粒度
・関係者との共有方法
PMや推進役が入ることで、
こうした点を整理し、
現代の前提に合った進め方に調整できます。
まとめ
新規事業が進まない時、
過去の成功体験は、
支えにもなり、足かせにもなります。
問題は、
成功体験そのものではなく、
それを「前提として固定してしまうこと」です。
・前提条件は変わっていないか
・そのやり方は今の環境に合っているか
・仮説として置き直せないか
こうした視点で整理するだけでも、
状況の見え方は変わります。
新規事業や新規プロダクトの立ち上げでは、
進め方が定まらないまま立ち止まってしまうことは珍しくありません。
もし「なぜか噛み合わない」と感じているなら、
一度、過去の成功体験を前提として整理し直すことも、
選択肢のひとつです。
それが、
次の一歩を考えるきっかけになることもあります。
