新規事業の現場で、
こんな感覚を覚えたことはないでしょうか。
「決まった、とは聞いたけれど……」
「なぜその判断になったのかは分からない」
「とりあえず進めるしかないが、少し引っかかる」
表向きは、物事が前に進んでいます。
会議も終わり、次のタスクも割り振られています。
それでも、どこかに残る違和感。
その正体は、多くの場合、判断の背景が共有されていないことにあります。
結論だけが伝わる現場
なぜそうなったか分からない
新規事業では、
「結論だけが伝わる」場面が頻繁に起こります。
・A案ではなくB案に決まった
・この方向で進めることになった
・今回は見送ることになった
事実としての結論は共有されます。
しかし、その判断に至った理由や経緯は語られません。
結果として、
「決まったからやる」という状態だけが残ります。
納得感が薄い
背景が分からないまま進むと、
個々のメンバーの中に、
小さな引っかかりが残ります。
・本当にこれで良かったのか
・他の選択肢はどうなったのか
・前提は合っているのか
誰かが強く反対するわけではありません。
ただ、納得しきれないまま作業が進みます。
この納得感の薄さは、
後になって効いてきます。
背景が共有されない理由
時間不足
判断の背景が共有されない理由のひとつは、
単純に時間が足りないことです。
新規事業の初期フェーズでは、
やることが多く、余裕がありません。
・会議が立て込む
・意思決定が連続する
・次のタスクが待っている
その中で、
「背景を説明する時間」が省略されやすくなります。
結論だけ伝えたほうが早い。
そう感じるのは自然なことです。
言語化の省略
もうひとつの理由は、
判断のプロセスが言語化されていないことです。
・なんとなく違和感があった
・総合的に見てこちらが良さそうだった
・空気的にこの選択になった
判断した本人の中では、
感覚的に整理がついていても、
それが言葉になっていない場合があります。
結果として、
「説明できないから省略する」状態が生まれます。
起きがちな弊害
後から異論が出る
判断の背景が共有されていないと、
後になって異論が出やすくなります。
・実装が進んだ段階で疑問が出る
・別の人が同じ論点を持ち出す
・「それは聞いていなかった」という声が上がる
この時点で異論が出ると、
すでに時間やコストがかかっています。
誰かが悪いわけではありません。
ただ、判断時に通過したはずの論点が共有されていなかっただけです。
同じ議論が再発する
もうひとつよく起きるのが、
同じ議論の再発です。
・以前も話したはずの論点が再登場する
・同じ比較が何度も行われる
・「またここから?」という感覚が生まれる
これは、
過去の判断が「記録」として残っていないためです。
結論は覚えていても、
なぜその結論に至ったのかが分からない。
その結果、
判断のたびに、同じところを行き来します。
初期フェーズで共有すべきこと
判断理由
初期フェーズで特に重要なのは、
なぜその判断をしたのかです。
・どの前提を重視したのか
・どのリスクを許容したのか
・何を優先したのか
完璧な説明である必要はありません。
仮説レベルでも構いません。
「この時点では、こう考えた」
それが共有されるだけで、
周囲の理解は大きく変わります。
捨てた選択肢
もうひとつ重要なのが、
選ばれなかった選択肢です。
・なぜA案は採用しなかったのか
・どこが懸念だったのか
・将来、再検討する可能性はあるのか
捨てた理由が共有されていれば、
後から同じ案が再浮上することを防げます。
また、
「状況が変われば再検討する」という余地も残せます。
推進役が行う判断の可視化
背景を残す
推進役の重要な役割のひとつは、
判断の背景を残すことです。
長い資料や詳細な議事録である必要はありません。
・この判断の前提
・比較したポイント
・今後見直す条件
これらを簡単に言語化し、
チームで共有できる形にしておく。
それだけで、
判断は「点」ではなく「線」になります。
次の判断をしやすくする
背景が可視化されていると、
次の判断がしやすくなります。
・前提が変わったかどうか
・仮説が検証されたか
・次に見るべき論点は何か
判断の履歴があることで、
「今どこにいるのか」が分かります。
これは、
スピードを落とすためではありません。
前に進み続けるための整理です。
まとめ
新規事業では、
結論だけを共有すること自体は珍しくありません。
忙しさやスピード感の中で、
背景が省略されるのは自然な流れでもあります。
ただ、その状態が続くと、
納得感の欠如、議論の再発、
判断の迷走につながりやすくなります。
誰かの能力や姿勢の問題ではありません。
構造として起きやすいことです。
新規事業や新規プロダクトの立ち上げでは、
進め方が定まらないまま立ち止まってしまうことは珍しくありません。
もし「どう進めればいいか分からない」と感じているなら、
一度、状況を整理してみることも選択肢のひとつです。
判断を急ぐ必要はありません。
ただ、その判断の背景を
少しだけ言葉にしてみる。
それだけで、
次の一歩が踏み出しやすくなることがあります。
