新規事業にKPIを置くタイミングを間違えると起きること

新規事業の立ち上げに関わっていると、
比較的早い段階で、こんな声が聞こえてくることがあります。

「で、KPIは何ですか?」
「いつまでに、どの数字を達成する想定ですか?」
「評価はどうするんですか?」

問いとしては、もっともです。
事業である以上、数字を見ること自体は自然な流れです。

ただ、その問いが少し早すぎるタイミングで出てきたとき、
プロジェクトが歪み始めるケースは珍しくありません。

目次

初期から数字を追いすぎる弊害

学習が止まり、正解探しになる

立ち上げ初期の新規事業は、
多くの前提がまだ仮説の状態です。

・顧客は本当に存在するのか
・課題設定は合っているのか
・提供価値は届いているのか

本来であれば、これらを確かめるために動くフェーズです。

しかし、早い段階でKPIが置かれると、
現場の関心は「学ぶこと」よりも「当てること」に寄りやすくなります。

仮説を検証するための動きが、
「正解らしいものを探す作業」に変わっていく。
これはよく起きる構造です。

現場が数字合わせに寄る

評価軸としてKPIが明確になると、
人は無意識に、その数字を守る行動を取ります。

・挑戦よりも安全な選択
・新しい仮説より、今ある数字の維持
・ズレを認めるより、説明がつく結果

結果として、
事業の可能性を広げる動きが減り、
「数字を落とさないための運用」に寄っていきます。

これは個人の姿勢の問題ではありません。
評価と行動が結びついた結果として起きるものです。

KPIが行動を縛る瞬間

まだ不確実なのに評価が先に立つ

立ち上げ初期では、
「やってみないと分からない」ことが大半です。

にもかかわらず、
成果KPIが評価と直結すると、
試す前から判断が重くなります。

・失敗したらどう説明するか
・数字が出なかった場合の責任
・評価にどう影響するか

こうした思考が先に立ち、
意思決定のスピードが落ちていきます。

変えるべき仮説が固定される

KPIは、
「何を大事にするか」を強く示す指標です。

そのため、
一度KPIとして置いた仮説は、
変えにくくなる傾向があります。

本来であれば、
途中でズレに気づき、
前提を組み替えることが重要です。

しかし、
評価と結びついたKPIがあると、
「変える」こと自体がリスクになります。

結果として、
修正すべき仮説が固定され、
違和感を抱えたまま進む状態が生まれます。

立ち上げ初期に見るべき指標

成果指標よりプロセス指標

立ち上げ初期に必要なのは、
「どれだけ成果が出たか」よりも、
「何が分かったか」を確認する視点です。

そのため、
見るべき指標も変わってきます。

・仮説検証の回数
・顧客との接点の数
・検証サイクルの速さ

これらは、
事業が前に進んでいるかどうかを確認するための材料です。

進捗の確認に使える観点

数字が不要という話ではありません。
ただし、その役割が違います。

初期フェーズの指標は、
評価のためというより、
状況把握と対話のために使われることが多いです。

・今、どこで詰まっているか
・何がまだ分かっていないか
・次に何を試すべきか

こうした会話を前に進めるための材料として、
指標が使われる状態が理想に近いと言えます。

評価軸の段階的な切り替え

フェーズ1:仮説と検証

構想段階から初期フェーズでは、
評価軸は「仮説を立て、検証できているか」に置かれます。

・仮説は言語化されているか
・検証の設計はできているか
・学びが次に活かされているか

この段階では、
成果の大小よりも、
検証の質と速度が重視されます。

フェーズ2:再現性と伸ばし方

一定の手応えが見え始めた段階で、
評価軸は少しずつ変わっていきます。

・同じ結果が再現できるか
・条件が変わっても機能するか
・どこを伸ばせばよいか

このフェーズでは、
部分的にKPIが使われることもあります。
ただし、まだ柔軟に見直せる前提が重要です。

フェーズ3:成果と効率

事業としての輪郭が固まり、
伸ばし方が見えてきた段階で、
成果KPIが本格的に機能し始めます。

・売上
・利用率
・継続率

このフェーズでは、
KPIは行動を揃えるための有効な軸になります。

問題は、
この順序が逆になってしまうことです。

PMが評価設計に関わる意味

数字が目的化しない設計

プロダクトマネージャーや推進役が関わる意味の一つは、
数字の位置づけを整理することにあります。

・今は何を確かめるフェーズか
・そのために数字はどう使うのか
・評価と切り離すべきかどうか

こうした整理がないままKPIを置くと、
数字そのものが目的になりやすくなります。

現場が前に進む評価軸づくり

評価軸は、
人を動かす力を持っています。

だからこそ、
「守るための数字」ではなく、
「前に進むための数字」である必要があります。

現場が萎縮せず、
試し、学び、修正できる状態を保つ。
そのための評価設計は、
初期フェーズでは特に重要になります。

まとめ

新規事業において、
KPIを置くこと自体が悪いわけではありません。

問題になりやすいのは、
置くタイミングと役割です。

立ち上げ初期は、
成果を測るよりも、
前提を確かめ、学びを積み上げる段階です。

そのフェーズで成果KPIを強く置くと、
学習が止まり、判断が硬くなり、
結果として前に進みにくくなります。

新規事業や新規プロダクトの立ち上げでは、
進め方が定まらないまま立ち止まってしまうことは珍しくありません。
もし「何を指標に見ればいいか分からない」と感じているなら、
一度、今のフェーズと評価軸を整理してみることも選択肢のひとつです。

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